hikaru_otsukiの日記

本、映画、散文

tick, tick...BOOM! ジョナサン・ラーソンの音楽は優しい

 いつでも聴ける音楽っていうのはなかなかない。だからこそ、どんな気分の時でもどんな天気でも、自然と心に入ってくる曲は貴重だし、思い入れが深くなる。ジョナサン・ラーソンのRENTの楽曲も、私にとってはそんな大事な音楽の一つだった。

 

 ジョナサンの作る音楽はとめどなく優しい。

 tick tick...boom!の楽曲も、彼自身のことを現しているのにも関わらず、私たちの人生を歌ってくれているような気がしてくるほど、私たちに寄り添ってくれている音楽が多い。彼の曲や歌詞に触れると安心する。

 RENTが好きなのも、この映画で描かれていたジョナサンの生き方に感動するのも、どちらも「人生に疑問を持つ」ことを許してくれているからなんじゃないかな。

 日々を過ごしていると、どうして向いてないと感じているのにこの仕事を辞めないんだろう、どうして納得できないのに従っているんだろう、更にはどうして合わないと思っているのに付き合い続けているんだろうとか、自分たちの選択にすら疑問を抱くことが増えてくる。もちろん、周りからの理不尽に対しても、怒りと諦めでもって、その状況に疑問を抱く感情すら押し殺してしまう。そう、大抵は、「大人になって」対処することが求められるけど、そもそも大人になるって何?理不尽を受け入れることなのか?落ち着いて状況を見て判断する、それだけが「大人になる」の指標なんだろうか?

 こっちの方が私の人生にとっては有利だから、儲けが出るから、そういう理由で情熱すら無視するようになってしまうこと、それが正しいのか?

 思考停止して、「今の自分はこれだけ恵まれているから」と勝手に納得して、それで自分は幸せなんだろうか?

 ジョナサンの曲は、こういう疑問を全部受け入れてくれる。私たち真っ先に答えを知りたいわけじゃないんだよ、考え続けていたい。そして、考え、悩んでいる自分を受け入れて欲しい。そういう私を見て欲しい。

 映画を見ている間、そんな夢が叶った気がした。

 ジョナサンは私たち個人を知っているわけではないけれど、多分、この映画を観た人たちはみんな祝福されたような気分になったと思うよ。悩んでいる自分が肯定されたから。

 

 まるで舞台を観ているようだった。終わったあとには脚が震えていたし、何度スタンディングオベーションをしようと思ったか分からない。この音の動きはジョナサンだ、と直感的にわかるくらい、いつも心に引っかかる旋律。手が震える。ネットフリックスで配信されているようだけど、これはお金を払って映画館で何度でも観たい。

 答えを出すことが目的なんじゃない、疑問や行動にこそ強さが宿るということ。

 ジョナサンの音楽は、どこか高い場所、離れた場所から私たちを「頑張れ」と鼓舞しているわけではなく、ただ私たちの隣にいて寄り添ってくれている。とんでもなく安心できて、人生を一緒に楽しめる親友みたいな存在。

 

 彼の音楽で幕が上がる。苦悩すらひっくるめて、今が生きることを楽しむ時なんだから、と少し肩の力が抜けた。仕事ばっかりの毎日、自分をがんじがらめにしていたけど、日々の違和感すら大切にしたい。彼の音楽が耳元で溢れている間は、きっと自分の可能性に希望を持てる。